日本から救世主(メシア)が来た
やっと読了。
- 作者: 出井康博
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2001/06
- メディア: 単行本
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「中根中」「疋田保一」という、戦前のアメリカはデトロイトとハーレムで黒人社会に入り込み活動していた二人の日本人の話。二人の生い立ちから家族のことまで深く掘り下げていきます。
二人の存在、特に中根の存在は今でも在米日系人の間ではタブーになっているそうです。なぜ二人は「黒人」(今はアフリカン・アメリカンという呼び方が適切ですが、あえて)を選んだのか、が非常に興味があるのですが残念ながら二人とも故人、しかもその「活動」期間が1930〜40年代ということもあり彼らと直接関係していた人物たちも当然亡くなっているわけで・・・。
疋田のほうは日本政府に利用されたという側面が強いようですが、中根がなぜアメリカで強い挫折を経験した後に「黒人・有色人種の救世主」になろうとしたのかは本当に謎です。作中に「神になろうとした男」という記述が出てきますが、まさにそんな感じであることないこと作り話で白人に抑圧されていたデトロイトの黒人たちの心をつかんでいくのですが、その過程が、(警察を出し抜いたりとか)最初は私も痛快に感じていたのですが読み進んでいくうちにどんどん薄気味悪くなっていく感覚に襲われました。
疋田の場合。もとから黒人社会や文化に興味があって(←何で興味を持ったのか知りたかったー・・・)、それを知った日本政府が「日本とアメリカはそのうち戦争をする。日本は世界中の有色人種を解放するために戦うのだから、あなたたちの協力が必要不可欠だ」という宣伝文句を広める任務を彼に背負わせる。要するに利用されているわけですね。きっと疋田は胸が張り裂けそうな気持ちで活動していたんだろうなーと、遠い時代に思いを馳せてしまいます。
作品全体を不穏で重苦しい雰囲気が覆う中、中根の愛人だったというチーバーさん(出版当時89歳!)という方が語る彼との思い出は、ちょっとした救いになりました。特に、関係があった当時の中根の年齢を知って驚きのあまり発した言葉には思わず噴き出してしまいました。