ハリケーンとスティーヴ・ビコとデンゼル・ワシントン


 例えば人から「何かいい映画ない?」と訊かれたときに、コレを紹介すればハズレないだろうっていう映画が自分の中でいくつかあって、「ザ・ハリケーン」もそのひとつ。

ザ・ハリケーン [DVD]

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 デンゼル・ワシントンが実在のボクサーに扮した人間ドラマ。無実の罪によって30年間も投獄された黒人ボクサー、ハリケーン。彼がその疑いを晴らすまでの波乱に満ちた半生を、事件経過を織り交ぜながら描いてゆく。ハリケーンに扮したデンゼルの熱演が秀逸。
 ボクサーとしての絶頂期に、いわれのない殺人罪で投獄されたルービン・“ハリケーン”・カーター。ある時、彼が獄中で執筆した自伝を読んだ少年レズラは、その背後に人種偏見がある事を知り、彼の釈放運動に立ち上がる。

ザ・ハリケーン (角川文庫)

ザ・ハリケーン (角川文庫)


ハリケーン (講談社文庫)

ハリケーン (講談社文庫)



 この冤罪事件およびルービン・”ハリケーン”・カーターさんについて書かれた本は(上から)角川版と講談社版の2冊があります。角川版はレズラ少年とともにハリケーン救出活動を行ったカナダ人グループの視点から書かれていて、「綺麗にまとまったおとぎ話」という印象が強いかな。映画の原作になったのも角川版だし。原題が「Lazarus and the Hurricane」というだけあって、レズラのブルックリンでの生活やカナダ人との出会い、アフリカンというルーツに起因する不当な劣等感を払拭するための教育の過程など、レズラに関する記述も多いです。レズラが字を正確に読み理解できるようになったことで知識への欲求に目覚めていく様子は、読んでいて胸が熱くなります。

 そしてよりハリケーンの内面やカナダ人グループとの関係など裏話的な事を知ることができるのが、講談社版。リサとの愛憎劇(?)や、ハリケーン釈放後のカナダ人グループの「善意の独裁者」ぶり、その過保護すぎる彼らからハリケーンやレズラがどうやって卒業(決別、かな?)したか、等々・・・。後日譚がすごくリアリティを伴って読み手に迫ってきます。人間同士の関わり合い、今まで鉄格子をはさんでやりとりしていたのが急に鉄格子がはずされて戸惑ってしまうのも無理はないし、何よりそれまでは「無罪釈放」という一つの、究極の目標に向かって頑張っていたのだから、それが達成された時にお互いの関係に変化が出てもおかしくはない、むしろそれが自然で当然のことなんだよなぁ、と感じます。

 その講談社版を読んで知ったのですが、ハリケーンは現役時代に南アフリカに遠征したことがあって、そこで通訳と案内をしたのがあのスティーヴ・ビコだったんだとか!


 アパルトヘイトに揺れる南アフリカ共和国における緊張と恐怖を力強く描いた、巨匠リチャード・アッテンボロー監督作品。一人の黒人運動家を取材し、そのメッセージを命がけで世界に伝えようとするリベラルな白人の新聞編集長の生き様を、壮大なストーリー展開で綴る。
 黒人運動化のスティーブ・ビコ(デンゼル・ワシントン)の助力により、アパルトヘイトの本当の怖さを知った新聞編集長、ドナルド・ウッズ(ケビン・クライン)は、ビコが警察に弾圧されてきた事実を知る。そこで彼は、ビコのメッセージを埋没させまいと心に決め,彼の勇気ある行動を世界に伝えるべく、危険を冒して南アフリカからの出国を図る。最悪の状況で果敢に行動する人間を刺激たっぷりに描いた、魂にふれる真実の物語。



(これなぜか下巻が出てないんだよね・・・)

 スティーヴ・ビコといえば映画「遠い夜明け」、これでビコを演じたのがデンゼル・ワシントン。「南アフリカに来たハリケーンの通訳と案内をしたのがスティーヴ・ビコ」という事実を知ったとき、きっと彼も感慨深かったんじゃないかなぁと思いを馳せてしまいます。ハリケーンは若き日のビコに大変感心し、銃などの武器を、逮捕されるまでこっそり彼に送っていたんだとか。やがて2人はそれぞれの国の権力により投獄され、1人は30年かけて無罪を勝ち取り、1人は看守からの暴行を受け30歳の若さで亡くなります。

 今日のタイトルは、Bob Dylanの"Hurricane"から。ハリケーンの再審に合わせて彼の釈放運動が盛り上がっていたとき(1975年)に発表された曲。8分以上もある大作で、事件のあらましについて歌われています。

欲望

欲望





Here comes the story of the Hurricane
The man the authorities came to blame
For somethin' that he never done
Put in a prison cell, but one time he could-a been
The champion of the world

そしてハリケーンの物語が始まる
権力が罪を着せようとした男
何もやっていないのに刑務所へ入れられた
世界チャンピオンにだってなれたはずなのに


歌詞はこちら→http://www.azlyrics.com/lyrics/bobdylan/hurricane.html

和訳はこちら→http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Kouen/2649/hurricane.html